渡邊・清水法律事務所

第26回 社外取締役の責任(ニデックの件を契機にして)

 ある方から、「ニデックの件などを観ていると、あのような事件を起こすことを知らずに不幸にも社外取締役を引き受けてしまった人の責任はどうなるのか、知りたくなります。」というご質問を受けました。もっともなご質問だと思います。

 少々長くなってしまうと思いますが、今回はこの点について少し触れてみます。ご興味、ご関心のある方はお付き合いください。

 以前、商事法務という法律専門雑誌のインターネット版である「商事法務ポータル」という媒体に、「社外取締役になる前に読む話」という全25回の連載をしていたことがあります。社外取締役の職務、権限と責任、社内情報を共有する具体的方法などがテーマでしたが、重要なテーマの一つが、社外取締役はいかなる場合にどのような責任を負担することになるのか、というものでした。

 今回は、まず、この「社外取締役になる前に読む話」の原稿をそのまま引き写してみます(この連載は、新たに社外取締役になったワタナベさんの疑問に、私、渡邊が回答していく、という内容になっています)。ちなみに、連載2回分をまとめてあります。

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ワタナベさんの疑問その1

社外取締役になって一年経つが、なかなか会社に聞けないことがある。社外取締役が会社に対して損害賠償責任を負わなければならない場合というのはあり得るのだろうか。またそのような事態がありうるとすると、社外取締役として何に注意しておいたら良いのだろうか。

 

 一体私はどのような場合に、会社に対して責任を負うことになるのでしょうか、という疑問を会社にぶつけるのは、会社が不祥事を起こすことを前提としているようで、なかなか難しい。

 この点、会社に代わってワタナベさんに回答しよう。

 まず、取締役一般の問題として説明する。

 取締役と会社との間には委任契約が存在する。取締役は、この委任契約上の義務として、会社に対し、善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)またに忠実義務と呼ばれる義務を負担している。善管注意義務と言われても、そりゃなんですか、ということになりそうであるし、善管注意義務と忠実義務とは何がどう違うのですか、という疑問も湧く。本稿でこの両者の違いを議論する実益はない。どちらも、平たく言えば取締役として果たすべき注意義務ということであり、取締役は、この善管注意義務に違反した場合に、会社に対して責任を負うことになる。いずれにしても、抽象的に義務の内容を議論するより、どのような場合に義務違反が発生するのかを検討した方が遙かに分かりやすい。

 取締役の善管注意義務違反は、以下の場合に発生する。

 1.違法行為に関与した場合

 2.取締役に与えられた裁量権を逸脱した場合

 3.他の取締役の業務執行行為の監視または従業員の監督を怠った場合

 4.内部統制システムの構築を怠った場合

 上記のうち、1と2はもっぱら、取締役が業務執行を行った場合に発生する可能性がある責任類型であるところ、社外取締役は業務執行を行うことはできないから、社外取締役の責任が発生する原因としては捨象して良い。また、4については、取締役による、1または2の有責行為が認められた場合に、当該有責行為を事前に防止するための社内体制を構築しなかった責任として付随的に認められる可能性があるものだが、社外取締役に対してこの責任が課せられる可能性は相対的に低いと思われるので、これも敢えて捨象する。

 そうすると残るは、3「他の取締役の業務執行行為の監視または従業員の監督を怠った場合」ということになる。但し、業務執行を行わない社外取締役が、自ら所管する業務を行う従業員の監督を行うということ自体あり得ないから、結局社外取締役が会社に対して責任を負う場合とは、突き詰めると、「他の取締役の業務執行行為の監視を怠った場合」以外には殆ど想定しづらいことになる。

 この監視義務の内容について若干解説しよう。

 監視義務とは、他の取締役が会社に損害を与える行為をしないように監視せよという義務であり、より具体的にいえば。他の取締役が上記1または2の行為、すなわち、違法行為または裁量権逸脱行為をしないように監視せよということである。前者についていえば、取締役が遵守すべき法令には基本的に何らの限定もなく、外国法も含まれるから、他の取締役があらゆる法律に違反する行為に関与して会社に損害を与えることがないように監視する必要がある。また後者は、経営判断の原則に基づき、取締役がその裁量権を逸脱しないように監視するということであるが、判例の枠組みによれば、取締役が裁量権を逸脱したとして責任を問われる場合とは、ひとつは、

(1)意思決定が行われた当時の状況下において、当該判断の前提となった事実の認識の過程(情報収集とその分析、検討)に不注意な誤りがあり、合理性を欠いている場合

であり、もうひとつは、

(2)事実認識に基づく判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものであった場合

である。要するに、取締役が経営判断を行うにあたり、経営判断の前提となる事実認識に誤りがあった場合、またはその判断が著しく不合理であった場合の双方に、当該取締役に、裁量権の逸脱による責任が発生する可能性があるということになる。したがって、取締役は、他の取締役が業務執行にかかる判断を行うにあたり、前提となる事実認識に誤りはないか、その判断自体が著しく不合理でないか、について監視する義務があるということになる。

 以上まとめると、社外取締役であるワタナベさんが責任を負う可能性がある場合とは、

1 他の取締役の業務執行行為が法令に違反していないか

または

2 他の取締役が業務執行にかかる判断を行うにあたり、前提となる事実認識に誤りはないか、その判断自体が著しく不合理でないか

    について監視する義務を怠ったとき、ということになる。

     以下では、その具体例について検討してみたい。

    ワタナベさんの疑問2

    当社が製造販売している製品と競合する製品を販売している会社に勤めている友人から、当社の米国子会社に勤務する社員が、中南米のある国での新規取引を獲得するために、現地の政府高官と接触し、金員を渡しているとの情報を得た。そもそも当社の米国子会社が中南米のある国での新規取引を開始するということ自体、取締役会では議論になったこともない。
    どうしたらよいだろうか。
    もしこの行為が法に触れるとしたら、私は責任を問われる可能性はあるのだろうか。

     

     社外取締役の監視義務が発生しうる具体例である。

     米国には、海外腐敗行為防止法(The Foreign Corrupt Practices Act)なる連邦法がある。この法律の内容の詳細な解説は小職の別稿(「米国における海外腐敗行為防止法(FCPA)執行の現状と対策-反トラスト法との比較において」NBL1022号2014年刊)などをご参照頂くとして、一言でいうと、米国法人の外国における贈賄行為を禁止する法律であり、違反した法人には巨額の罰金刑が科される。ここでいう米国法人には外国会社の米国子会社も含まれるため、仮に当社米国子会社が中南米の国の政府関係者に贈賄を行っているとすると、当該米国子会社もまた、同法違反に問われる可能性がある。また、取締役が遵守する法律には外国法も含まれるというのが我が国の裁判例の確定的な考え方であるから、違反行為により親会社である当社も損害を被った場合には、当該米国子会社取締役を兼務する取締役のみならず、本件業務を管掌している取締役が別にいれば、当該取締役もまた、自ら違法行為に関与した、または従業員の監督義務を怠ったとして責任を負担する可能性がある。更に、当該行為を看過した他の取締役もまた、社外取締役も含めて監視義務違反に問われ、責任を負担する可能性がある。ワタナベさんも同様である。

     したがって、ワタナベさんも、取締役が違法行為に関与したことにより、会社に責任が発生する可能性を示唆する情報に接した以上、何らかのアクションを取る必要があろう。

     但し、ここで一点、留意すべき点がある。それは、政府関係者への接触云々のみならず、米国子会社が中南米のある国での新規取引を開始するということ自体、当社取締役会に上程されたことも議論されたこともないということである。この点に関しては、全国保証事件判決(東京地裁平成21年4月24日)という裁判例がある。この判決で東京地裁は、「取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、(中略)取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職責を有する(最高裁判所第三小法廷昭和48年5月22日判決・民集27巻5号655頁)。」との一般論を述べつつ、「ただし、代表取締役の業務全てについて取締役の監督権限を行使することは事実上不可能であるから、代表取締役の任務違反行為の全てにつき取締役が監視義務違反の責任を問われるものではなく、取締役会の非上程事項については、代表取締役の業務活動の内容を知り又は知ることが可能であるなど特段の事情があるのに、これを看過したときに限って監視義務違反が認められると解するのが相当である。」(斜体は筆者)と判示している。

     更に、いわゆるAIJ投資顧問年金資産消失事件に関して社外取締役の責任が問われた裁判で、東京地裁は同旨の判断の枠組みを示している。すなわち同判決は、「社外取締役については、同人が社外の者であることや、業務遂行に関与しない立場にあることを考慮する必要はあるが」としつつ、一般的な善管注意義務の内容についてはその他の取締役と同様に解するのが相当、とした上で、「取締役の責任が肯定されるためには、当該違法な業務執行を発見することができるような事情が存在し、且つ取締役がこれを知り得ることが必要であると解するのが相当である」と判示している(東京地裁平成28年7月14日判決)。

     つまり、ワタナベさんが直面した問題のような、取締役会の非上程事項については、業務に関与していない取締役の監視義務の要件が若干厳格化され、業務執行の内容を知り又は知ることが可能であるなど特段の事情があるのに、これを看過したときに限って責任を認めるのが裁判例の流れということができる。

     これを本件についてみてみると、ワタナベさんは、もう既に違法行為が行われたかもしれないという認識を持っている。従って、業務執行の内容について実際に知っていた、又は少なくとも知りうべきであったと判断される危険性があると思料されるから、違法行為が行われていたとすると、ワタナベさんが監視義務違反を問われる危険性は既に発生していると言わざるを得ない。この点、未認可添加物の混入に関するダスキン事件株主代表訴訟事件において裁判所は、「自ら積極的には公表しないという方針については、同取締役会において明示的な決議がなされたわけではないが、当然の前提として了解されていた」と判示した上で、この「当然の前提」について異議を唱えなかった役員に対し、社外取締役も含め、損害賠償責任を肯定している(ダスキン事件判決 大阪高裁平成18年6月9日判決)。このダスキン事件判決も、取締役会の決議があったか否かを責任発生のメルクマールとしているのではない。取締役会において「当然の前提として了解」されていれば責任が発生するとしているのであり、上記全国保証事件やAIJ投資顧問年金資産消失事件における裁判所の判示を併せて読めば、このような事情があれば「代表取締役の業務活動の内容を知り又は知ることが可能であるなど特段の事情があるのに、これを看過した」ことになり、監視義務違反に問われる可能性があるということになる。

     ではワタナベさんはどのようなアクションを採れば良いのだろうか。

     上記のように、業務に関与していない取締役の監視義務については、取締役会の上程事項と非上程事項で責任を肯定するための要件を区別し、取締役会非上程事項については、業務執行の内容を知り又は知ることが可能であるなどの事情があるにもかかわらず、業務執行取締役の違法行為を看過したような場合に限って責任を肯定している裁判例があるのだが、その前提には、業務執行に関わらない取締役は当該業務に関わる情報を入手する機会が限られているため、業務執行取締役に比して責任発生要件を厳格にすべきであるという配慮があると考えられる。そうだとすると、この区別は、取締役会の上程事項か否かという形式的基準ではなく、当該業務に関与していない取締役にも情報共有がなされているか否かという実質に照らして判断されるべきであろうと思われる。そして、業務執行に関与しない社外取締役の監視義務についても、このような考え方は基本的には妥当すると思われる。

     したがって、この裁判例に従えば、ワタナベさんについても、本人の知らないところで取締役が違法行為等に関与した場合には、ワタナベさんが当該業務執行行為の内容を「知り又は知ることが可能であるなどの事情があるにもかかわらず、業務執行取締役の違法行為を看過したような場合」以外は、基本的には監視義務違反に問われる危険性は低いこととなる。

     しかしながら、ワタナベさんが直面した問題の場合、ワタナベさんは既に、海外腐敗行為防止法(FCPA)違反を構成する危険性のある事実の存在、すなわち、業務執行取締役が違法行為に関与しているかもしれないという情報を入手している。ワタナベさんは、当該情報を社外の非公式なルートで情報を入手したに過ぎず、しかもそのルートも、競合会社に勤務する友人という、その信憑性に疑念もあるルートではあるが、たとえ情報の入手経路等から、当該情報の信憑性等に問題があり得たとしても、実際に調査に着手すれば、当該情報の真偽やそれに対する対処が可能になり、結果的に会社の損害が回避される可能性があったのであれば、監視義務発生の端緒として、当該情報の入手経路や入手方法如何で責任を減免するという議論は説得力を持ち得ないと思われる。従って、当該業務執行行為により、実際に会社に損害が発生し、ワタナベさんが何らのアクションも採らなかった場合には、ワタナベさんが監視義務違反に問われる可能性は高いといわざるを得ない。

     ではワタナベさんはどうしたらよいのだろうか。

     ワタナベさんが最初に直面する問題は、社内の誰に相談するのが適当なのかということになろう。この問題は、視点を変えて、会社としてまず何をすべきか、という点から考えることも一助となるかもしれない。取締役が違法行為に関与している可能性があるという情報を入手した場合、会社がまずすべきことは、徹底した事実調査であろう。そうだとすると、社内の誰がそのような事実調査を開始することができるかという観点から相談すべき人物を考えてゆけば良いことになる。

     通常真っ先に浮かぶのは代表取締役であろう。代表取締役であれば、社内の総ての部門に対し、徹底した調査を命じることが可能となるはずである。それでは代表取締役に通報すれば十分なのだろうか。ここで考えるべきは監査役との協力である。監査役は、会社の業務及び財産の状況の調査権限が付与され(会社法381条2項)、逆にかかる調査権限を適切に行使しない場合には任務懈怠に問われる。また、監査役設置会社における監査役は、取締役の責任追及を行う場合には、会社を代表して訴えを提起する権限も付与されている(会社法386条1項。因みに細かい話になるが、「取締役会設置会社ではあるが、監査役設置会社ではない会社等」では、代表取締役が会社を代表することになる。)。つまり、監査役は、その職務上の権限として、取締役の業務が適切に行われているか否かについて事実調査を行うことが会社法上認められているのであり、取締役としても、自らの監視義務を十全に全うするために、この監査役の調査権限を活用することは検討されて良いと思われる。

     本設例でも、ワタナベさんとしては、代表取締役に相談することは勿論検討されて然るべきであるが、それと同時に、監査役会に連絡、協議の上、具体的対応を委ねるということも検討すべきであろう。代表取締役へ自らが通報するよりも、監査役会との協議をまず行い、具体的方策は監査役会に委ねる方がむしろより適切な場合もあると思われる。

     いずれにしても、業務執行取締役が違法行為に関与した可能性のある情報を入手した以上、これを放置した場合には最終的に責任を負担することもあり得るということをワタナベさんは十分に理解し、速やかに具体的対応を採るべきである。

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     大変長くなってしまいましたが、ニデックのような不祥事を起こした会社の社外取締役の責任は、いかなる根拠に基づいて発生するのか、責任が問われる場合とそうでない場合を分ける境界がどのあたりにあるのかについては、凡そお判り頂けたのではないかと思います。要するに、裁判例の流れは、社外取締役が共有できる情報の深度に一定の配慮はしつつ、しかし業務執行取締役と同等の責任が発生すること自体関しては原則肯定しています。現在まで社外取締役が責任を負担する案件は決して多くはありませんが、今後はこのような事案が増えていくことも予想されます。このコラム第15回「社外取締役を置くことにどんな意味があるのか」でお書きしたように、社外取締役にも、経営トップに対し忖度なくものを言う胆力が必要ですが、その胆力は、いざという時に自らを守るものでもあるのです。

     東芝が外資ファンドから取締役を選任することを決議するにあたり、決議に反対して社外取締役を辞任した綿引氏のような見識と覚悟が要求されているということではないかと思います。

     余談ですが、ニデックの件は、第三者委員会による調査報告書によれば、永守氏が個人的に任命した特命監査部長が暗躍し、永守氏の意向に沿わない社内の動きを総て封じ込め、粉飾決算が表に出ないよう、徹底した対策が採られていったようです(さながらアニメの世界ですね)。これから地検特捜部による刑事捜査も本格化するでしょうし、取締役の責任について検討する調査委員会も組織されたようですので、今後の進展を待ちたいとは思いますが、いずれにしても、この特命監査部長のような者が存在し、経営陣の違法行為や不正を徹底的に隠蔽する仕組みが出来上がってしまうと、その違法行為を炙り出すのは非常に困難になってしまいます。実はコンプライアンスだのガバナンスだのと言われているシステムの本質的な弱点はここにあるのですが、この点はいずれ機会をみて取り上げたいと思います。

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