
テレビのコメンテーターと呼ばれる人たちによく弁護士が登場しますよね。それも「国際弁護士」という肩書の人たちが増えてきたように感じます。時代の流れなのか、テレビ局のディレクターの趣味なのか、相変わらず日本人は「国際化」だの「インターナショナル」だのという言葉に弱いのか、それはわかりませんが、国内外の問題に対して、いかにもオレは、というドヤ顔でお話になっている「国際弁護士」の勇姿をよく見かけます。
でも、「国際弁護士」って何をしている人たちなんでしょう?
そもそもそんな肩書はあるのでしょうか?
今回はこの「国際弁護士」って何?というのがテーマです。
実はぼくは、世間的には「国際弁護士」だの、ちょっと昔は「渉外弁護士」だのと呼ばれる範疇の弁護士だと自認しています。それはなぜかというと、外国語(ぼくの場合は英語ですが)を使う仕事が業務の一定割合を占めるからです。そして、世間の「国際弁護士」の最大公約数的な認識というのは、まあこのあたりかな、と思います。あるいは、しょっちゅう海外出張をしている弁護士という認識の仕方をされている方もおられるかもしれません。
でも実際のところ、世間で国際弁護士と言われている弁護士はいったい何をしているのか、それを今回ご紹介させて頂きます。
まずは形式的な話から。資格についてです。
「国際弁護士」という資格はありません。我々の資格は基本、国ごとに付与されます(アメリカは州ごとです)。従って、自分は国際弁護士だと標榜している弁護士も、基本は日本の資格を持っている弁護士です。
他方、日本人以外の弁護士、例えばアメリカの資格を持っているアメリカ人の弁護士も、外国法事務弁護士という資格で日本で働いていますし、同様にアメリカでは資格を取ったが、日本の資格は持っていない日本人で、アメリカの法律事務所の東京オフィスや、日本企業の法務部で企業内弁護士として働いている人たちもいます。彼らは外国の資格を持っている弁護士ですが、例えばアメリカのニューヨーク州の資格を持っている弁護士は、日本で働いていても、ニューヨーク州法に関連する案件しか扱うことはできません。日本法が絡む案件は扱うことができないのです。逆に、日本の資格を持っている弁護士も、海外での資格を持っていない限り、「国際弁護士」という肩書を使っていても、実は日本法に関連する案件しか取り扱えないのです。
そして、このコラムでお話ししようと思っているのは、日本の資格を持っている弁護士で、「国際弁護士」という範疇に属する弁護士の仕事についてです。
ちなみに、日本の資格を持っている弁護士で、同時に海外の資格も持っている弁護士もいます(ちなみにぼくもニューヨーク州とイリノイ州の資格を持っています)。例えば日本の資格とニューヨーク州の資格を持っていれば、日本法に基づく仕事と、ニューヨーク州に基づく仕事を行うことができます。外国の資格も併せて持っていると、なんとなく「国際」っぽいですね。しかし、海外の資格を持っていることは、国際弁護士として仕事をするために必須の要件ではありません。この点は後程お話します。
次は言語についてです。
「国際弁護士」と聞いて皆さんがまず真っ先に思い浮かぶのは、「英語で仕事をする」ということではないでしょうか。「国際弁護士」である以上、それは外国語を使う弁護士のことなのではないか、というのは自然な発想ですし、外国語で仕事をすることは必要不可欠です。わざわざ「国際弁護士」という範疇の弁護士を考えるのであれば、それ以外の「国際弁護士でない弁護士」との違いがなければ意味がないことになります。そして、その違いは、外国語を使う案件ができるということに求めるのが、恐らく最も自然ではないかと思われます。そして、この「外国語を使う案件」は、依頼者が外国人又は外国企業である割合が必然的に高くなります。弁護士の仕事が依頼者から話を聞いて事実を収集し、それに法律を適用して一定の解決を図っていくことである以上、依頼者が外国人や外国企業であれば、この作業を外国語で行う必要がある、つまり依頼者と外国語でコミュニケーションを取らなければいけないことになるからです。そして、この「依頼者と外国語でコミュニケーションを取る」という作業、実はこのための外国語のスキルはかなりのものが必要となります。例えば外国企業の法務担当者と会議をすることになれば、会議の言語は外国語ですし、その担当者とメールのやり取りをするのであれば、外国語のメールを書き、読まなければなりません。つまり聞く、話す、読む、書く、の総てのコミュニケーションを外国語で行う能力がなければ国際弁護士として仕事をすることはできません。しかも弁護士の仕事の大半は書面の作成に費やされるので、メール以外にも、メモや報告書を作る、裁判所に提出する書面を書く、日本語の書面を外国語に翻訳する(逆もあります)、そういった業務総てについて外国語を的確にコマンドする、そういう能力が要求されることになります。(その他重要なのが、外国人と一緒に食事する、酒を飲む、というヤツですね。実はこれが意外と難しいんです。外国語のスキルもさることながら、文化的なギャップもかなりあります。また余談ですが、国際弁護士の外国語のスキルは、ぼくも含めて、外国人同士がゲラゲラ笑いながら雑談をしている中に割って入って同じようにゲラゲラ笑うという芸当ができるほど高くはないというのが実情です。)
次に一番重要な話、案件についてです。
国際弁護士ってどんな案件に関わっているのか、というお話です。そもそも弁護士って何をしている人種なんでしょうか。皆さんが真っ先に頭に浮かぶのは裁判でしょうね。法廷に立って依頼者の立場に立って闘う、それが弁護士ではないかと。
その通りです。やはり裁判こそ弁護士の仕事の一丁目一番地です。では日本人の国際弁護士はどんな裁判を仕事にしているのでしょうか。それはいわゆる「国際訴訟」というものです。では「国際訴訟」とは何か。それが次のお話です。
「国際訴訟」といっても法律上の定義があるわけではありません。言葉の意味合いからいくと、「国際」の対立概念は「国内」でしょうから、まずは「国内訴訟」とは何か、を考えてみましょう。そこには二つの切り口があります。一つは「裁判地」、もう一つは「当事者」です。「裁判地」とは、裁判がどこで行われるのか、ということであり、「当事者」とは、裁判の原告と被告は誰か、ということです。そして日本における「国内訴訟」を、「日本国内で完結している訴訟」と考えれば、上の二つの切り口、つまり「裁判地」と「当事者」について、日本の裁判所で行われ、原告も被告も日本人か日本企業である訴訟、と言えることになります。
そうすると、それに対峙する概念としての「国際訴訟」とは、これも上の二つの切り口から考えてみると、「裁判が行われる場所が日本国外である訴訟、または当事者のどちらかが外国人か外国企業である訴訟」ということになります。つまり、例えばニューヨーク州にある裁判所(正確に言うと、州裁判所と連邦裁判所の両方があるのですが、それはそれとして)で、日本企業とアメリカ企業を当事者とする訴訟も、日本にある裁判所で、外国企業と日本企業が争う訴訟も、外国企業同士が争う訴訟も、当事者の一方又は双方が外国人または外国企業である場合には国際訴訟ということになります。
ちなみに、後者、つまり、日本の裁判所で外国企業が当事者の一方又は双方として関与する訴訟も、裁判が日本で行われる限り、日本の弁護士しか関与できませんが、これが「国際弁護士」の仕事であると想像されていた方はむしろ少ないと思います。しかし、このような訴訟であっても、外国人や外国企業が関与している以上、訴訟前の当事者間のやり取りは外国語で行われていることが殆どですので、その結果どの文書を証拠として提出するか等の判断も、相当高度の外国語能力が要求されますし、逆に訴訟の相手方が外国企業の場合、提出される証拠の多くは外国語ですので、やはり同様に、弁護士にも相当な外国語の能力が必要となります。日本の裁判所での訴訟である以上、翻訳を添付することが当然必要になりますが、翻訳は必ずしも客観的正確であるとは限らず(要するに自分たちに有利に意訳されることがあるということです)、また翻訳されていない箇所に当方に有利な文章が隠れている場合もあるので、自分の依頼者が日本企業であっても、外国企業が相手方である以上、外国語の能力が要求されるということです。つまり、自分の依頼者が外国企業であろうと、相手方が外国企業であろうと、外国語の能力のない弁護士がこのような仕事を行うことは非常に難しいのです。その意味で、このような訴訟の代理人を務めるということも国際弁護士の重要な仕事のひとつです。
逆に前者、つまり、海外の裁判所で当事者一方の代理人として訴訟を行うケース、これが国際弁護士の仕事であることは、容易に想像できるところかと思います。しかし実際のところ、こういう仕事をしている日本の弁護士は殆ど存在しないと思います。理由は簡単で、そもそも外国の裁判所の案件であれば、現地の弁護士に依頼すればよいからです。例えばニューヨーク州所在の裁判所で日本企業が訴訟に巻き込まれたとしましょう。その場合には、ニューヨーク州の資格のあるアメリカ人の弁護士に代理人になってもらえばよいのです。しかしそれに加えて日本人弁護士を関与させることがないかと言えば必ずしもそうではなく、日本人弁護士を関与させることが必要なこともあります。
例えば、ニューヨーク州の裁判所が日本法に基づく判断をしなければいけない場合です。外国の裁判官にとって日本法は全くの専門外ですので、このような場合には、日本人の弁護士を専門家証人又は鑑定人として関与させ、意見書を提出させるとともに、裁判所で証言させる必要があります。ぼくもそのような経験はありますが、現地の裁判所で、相手方の弁護士から英語での反対尋問を受けることになるので、それはそれで非常に緊張します。
また、そのような鑑定証人として呼ばれる場合でなくとも、日本人の弁護士が、外国弁護士と一緒に代理人となり、或いは代理人とはならなくとも、日本サイドで日本企業のアシストをする、ということも多いです。その場合は例えば、現地代理人との打ち合わせなどのコミュニケーションをすべて担当して訴訟をコントロールすると共に、依頼者の意向を英語で現地代理人に伝える、同時に今裁判所ではどのような手続が行われていて今後何が起きるのか、という訴訟進行状況を逐一解説して、依頼者の意思決定を支援する、というような仕事を担当することになります。直接企業の取締役会に参加して現状を解説し、その意思決定のために意見を述べることもあります。更には、現地弁護士と一緒に代理人として登録し、法廷に代理人として出頭することも、頻度は少ないですが、ないわけではありません。
ぼくは紛争解決が専門の弁護士ですので、上記のような態様で海外での訴訟に関与することが多いですが、恐らく日本の弁護士でこのような仕事をしている弁護士はあまり多くはないのではないかと想像します。なぜかというと、日本で国際弁護士と言われている人たちのほとんどは、紛争解決を専門とする弁護士ではなく、契約などの取引に関与する弁護士だからです。
というわけで、次に、契約交渉や契約書作成を専門にする国際弁護士がどのような仕事をしているかをご紹介します。
契約書の作成を専門としている国際弁護士が本領を発揮するのは、契約書が外国語で書かれている場合です。これは外国語が読めない、書けない弁護士には全く手に負えません。国際弁護士の独壇場です。但し、このような国際弁護士も、仕事の総てが外国語の契約書かというと全くそんなことはなく、むしろ仕事の多くは日本語の契約書の作成であるといってよいかと思います。しかし、いざ外国語の契約書の作成や、外国企業との交渉が必要になったときは、外国語能力や、外国法に関する一定の知識が必要不可欠ですので、それは正しく国際弁護士の仕事と言ってよろしいかと思います。特に外国企業との契約交渉なども、相当高い外国語能力が求められるので、外国語に堪能な弁護士以外は交渉の場に立つこともできません、但し、契約交渉のフロントラインに立って、通訳なしに契約交渉ができる弁護士は、国際弁護士と言われている人たちの中にも実はあまり多くはいない、というのがぼくの印象です。
最後に、先ほど「海外の資格を持っていることは、国際弁護士として仕事をするために必須の要件ではない」と書きましたが、その意味についてお話します。
いかなる国の弁護士であれ、弁護士が海外の法廷に立つには、その国で資格を持っていることが絶対に必要です。例えば、ニューヨーク州の州裁判所で、当事者の代理人として訴訟に参加するためには、ニューヨーク州の資格が必要ですし、例えば連邦裁判所の裁判に関与するには、州の資格を前提に、連邦裁判所で訴訟活動をすることについて連邦裁判所から承認してもらう必要があります。
また、話が少し専門的になりますが、アメリカの訴訟手続では証拠開示(Discovery)制度があるということをご存じの方もおられるでしょう。アメリカなど英米法系の国では、訴訟当事者がお互い手持ちの証拠をすべて開示しあうのが大原則になっています。しかしこれには例外があり、代理人と依頼者の間のコミュニケーション(文書、口頭を問わない)や、代理人が依頼者のために作成した文書などは、守秘特権(Privilege)の対象として、開示しなくてよいことになっています。しかしこの例外規定は、アメリカで資格を持っている弁護士のみが対象で、アメリカ以外の国の弁護士は対象にはなりません(裁判所によって結論は分かれていますが、連邦最高裁判所の統一見解がないので、日本の弁護士も対象であることを前提とすると危険です)。従って日本の弁護士としてアメリカの訴訟に関与するためには、アメリカでの資格を持っていることが絶対に必要であることになります。
雑談ですが、30年近く前、アメリカのデラウエア州での訴訟に関与した時に、相手方の企業に代理人としてついていた日本の大御所弁護士(我々の事務所もそうでしたが、いわゆる四大事務所といわれていた別の事務所のトップであられた超有名人の大先生)から直々に電話がかかってきて、「渡邊くん、どうかね、こういう無為な争いはせず、日本の弁護士同士で腹を割って話して、何とか和解しないかね」と仰るので、言おうかどうしようか悩んだ末に「先生、ご趣旨には全く異論はありませんが、先生はアメリカの資格はお持ちでないので、Privilegeは利きません。ですから、その場合、そちらがお持ちの弁護士作成文書(これを「Work Products」といいます)などは総て開示して頂かなくてはなりませんが、ぼくはニューヨーク州の資格を持っているので、当方は開示する必要はありませんし、開示も致しません。そのような前提でよろしいでしょうか。」とお伝えしたところ、「何を失礼なことを言っているんだ、きみは」と電話口で烈火のごとく怒られて、ガチャンと電話を切られました。彼はフルブライトで留学されたのですが、当時ロースクールのLL.M.という修士課程に留学していた学生がアメリカで司法試験を受験して弁護士資格を得る途はなかったのです(その先生が留学された10年ほど後にそのような道が開けたと認識しております)。その先生も既に鬼籍に入られていますが、若造から生意気なことを言われて、さぞ悔しかったでしょうねえ。こちらも依頼者の利益を守らないといけないので、申し上げざるを得なかったのですが、申し訳ないことをしたと今でも思っています。もしあの世でお目にかかったらお詫びしようと思っております。
逆に、契約書の作成や契約交渉に関与するためには、海外の資格は必要不可欠なものではありません。契約書の作成段階では秘匿特権の問題は発生しませんし、海外の法廷に立つこともないからです。このような理由で、最近は海外に留学しても、現地の司法試験を受験しないで帰国する弁護士も一定程度存在します。
国際弁護士の仕事について少し解説させて頂きました。ちなみに、この業界も狭いので、有能な弁護士と言われている人たちはよく案件の相手方などで名前が出てきますが、テレビのコメンテーターであられる有名国際弁護士の先生方のお名前を案件で聞いたことは、ただの一度もありません。
3/19/26